知っておきたい保険の話

市からお金を借りる

昔の話です。

私がまだ短大生だったころ、駅に向かって歩いていると向こうからなにやら黒い塊が歩いてくるではありませんか。
なんだろうと思っていると、いかにも浮浪者らしい人がきょろきょろしながら歩いていたのです。

その人はおじさんで、着るものも顔も手もなんだか薄汚れていました。
そのおじさんは私に気が付くとにこにこしてこういいました。

『お嬢ちゃん、市役所どこにあるか知ってる?』
私はその土地に住んでいたのでもちろん市役所の場所は知っています。

そこで説明すればよかったのですが、うまく説明する自信が無かったのでそのおじさんに
「私、場所知ってますから、一緒に行きましょうか?」

と提案したのです。おじさんは喜んでついてきて、その数分間の間にこの話を聞きました。

『お金を持ってなくても市役所に行ったら少しだけお金をもらえるんだよ、あとは空き缶を集めて持って行っても、お金がもらえるんだよ。』と。

おじさんはお金をもらうために市役所へ行こうとしていたのです。
「着きましたよ、ここです。」

私が言うとおじさんは、その時期まだ残っていた雪を掴み手をその雪で洗うと、恥ずかしそうに握手を求めてきました。
『ありがとうね』

私はなんだか、そのおじさんが悪い人だとは思えませんでした。
あれからもう10年以上経ちましたが、あのおじさんは・・・今頃なにをしているのでしょうねぇ・・・。